オファー先が一流家具メーカーADALさん

ある日の夜、花を生けている姿を撮影させて欲しいと制作会社から連絡がありました。   小倉城庭園で撮影を1週間後に予定していると言われ、有名な家具メーカーADALさんでした。撮影は初めてな私はただ驚きを隠せず撮影当日を迎えました。

皐月の緑風

撮影当日は、五月晴れで、新緑の香りがする頃に小倉城庭園で撮影をしました。      書院棟の広縁からは、新緑に囲まれた「浮見の庭」が一望できます。撮影前に少し時間があり、広縁の一部が池に張り出す「懸造り」の広縁から庭園を眺めていました。すると庭園の木々が「おいでよ」と言ってくれている気がして庭へ降りて行きました。竹の垣根には、いろは楓の並木道が続いています。

楓のかおり

楓の葉は、おひさまが透けて見えるぐらいの柔らかさ。葉の近くには、翼を広げたような花が咲いていました。葉の香りを嗅ごうとすると、ジャスミンのように上品で甘い香りがほのかにしました。楓は香りがしないと思われがちですが、香りがする花があるんです。心を落ち着かせて香りを聴いてみてください。

いろは楓の語源は、葉先にぎざぎざ(鋸歯)があり、この裂片を「いろはに」と数えたというのが名の由来のようですよ。

贅沢な時間

竹の長椅子に上には赤い毛氈が敷いてあり野点傘が立ててあります。私は腰かけ、非日常な世界に浸りました。大きな池の周りは、松、椿、すすきや山野草が植えられ、浮島へと続く太鼓橋が架かっていました。水面はキラキラと輝き、小鳥たちは気持ちよく庭園内を舞って想いを奏でて唄っているように思えました。ほんの少しの間だけど、庭園を散策し木々や花からもらった光りや香りを身にまとい、私は書院棟へ帰りました。

撮影が始りました。

取次の間から18畳もある「二の間」の広縁を過ぎ、撮影場所の18畳もある「一の間」へ。  私は、「THE・日本」を表現したくて花材選びをしました。花材の夏櫨、菖蒲、芍薬に篠崎八幡宮御苑の竹を小石原焼の壺に生けます。畳から始まる日本の文化、アダルさんのブランドコンセプト「自然への注視 Look into Nature」をテーマに撮影が始まりました。

畳の部屋、和室が少なくなってきました。足ざわりの良さ、保温性、吸保湿性、香りのリラックス効果などがありますよ。子供の頃、エアコンなんてなかったので、夏になると敷布団の上にい草マットを敷いて寝ていました。時折、顔に畳のあとがついていたことをありました。

花材について

竹が1本だけ曲がっていて、これを使いたかったんです。本来、竹は真っ直ぐに伸びます。曲がってもいずれ真っ直ぐに伸びます。そこで、大黒柱ともいえる立ち位置に持ってきました。「人も竹も植物もやり直すことができるよ」って伝えたくて。5月の夏櫨の葉は、少し煉瓦色に染まるんです。

花界での菖蒲は男性、芍薬は女性のイメージで使われます。               一年中、色の変わらない青々とした竹、少し煉瓦色に染まる夏櫨で流れを作り、そして凛とした武士のような菖蒲、そばで咲く華やかさと芳しさを放つ芍薬。1602年に築城された小倉城の勇壮な艶やかさ、自然界と人の共存を表現できたかなと思いました。撮影前に「浮見の庭」を散策し、花木の妖精が力を貸してくれたのかなと思いました。

結束力と爽やかな達成感

撮影中は、何度も所作のやり直しなどをしました。つくづく俳優の皆さんは大変だなと思い、少しだけ女優さんになれた気がしました。

最後のシーンの撮影が終わった時「OK!」の声がかかると、思わず拍手喝采と、「ありがとう!お疲れ様!」の声が飛び交い、味わった事のない達成感を感じました。全員で同じゴールに向かう結束力って素晴らしいです。

考えてみると、緊張していたのは私だけではなかった事に気がつき、ちょっとだけ安心しました。

新緑の風が心地よく、撮影中は幾度となく優しい風が私の背中を撫でおろしてくれたように思いました。

月窓からみる18畳の大広間と床の間と違い棚、日本の伝統や建築の美しさを多くの人に伝えて、見て頂きたいと素直に思いました。家具メーカー㈱ADALさんのムービーには日本の美しさである、季節、景色、模様などをイメージして創られた家具やい草から畳に製作されている工程が撮影されています。滝の流れをイメージした背もたれの長い椅子は美しいです。

家具メーカー㈱ADALさんのブランドコンセプトが見るだけでわかります。そのようなムービーに出演させて頂いた事は、私の華道人としての大きな一歩となりました。この時から「できない」ではなくて「やってみる」という気持ちで物事に挑戦しようと決意しました。

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